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第25話 畏敬と畏怖

작가: 青砥尭杜
last update 최신 업데이트: 2025-02-17 22:56:55

 カイトは軍服が届いた翌日の火曜日、九月十七日から魔法や魔道士としての基本的な作法などをエルヴァから教わることに並行して、王宮病院で実際に治癒魔法を行使して患者の治療にあたっているケンゾーとともに、実際に治癒魔法による治療を経験しながら治癒魔法を習得することにした。

 カイトから治癒魔法も早めに習得しておきたいという意向を聞いたエルヴァは「それはいいね」と二つ返事で了承した。

 ケンゾーもカイトの申し出を喜んで快諾した。

 叙任式典の前であることを考慮して、カイトは軍服ではなくフロックコートを着て王宮病院へ通うことにした。

 王宮病院の医師や看護師といった関係者とその患者には、カイトに関する箝口令が敷かれた。

 実際に治癒魔法を行使する治療に先立って、ケンゾーは王宮病院内にある書斎でカイトに治癒魔法についての説明を始めた。

「治癒魔法は軽傷を治療するクラティオ、重傷を治療するクラティダ、致命傷すら治療できるクラティガの三つに分類してるけど、それは治療に必要となった魔力量の差でしかない。裂傷や骨折といった負傷箇所をトレースして完治するまでのイメージを浮かべ、魔力によって完治のイメージを患部へ伝えるという一連の流れは同じなんだよ」

 意外に単純な分類だと感じたカイトは、それを隠さず口にした。

「それぞれ別の魔法ってわけじゃないんですね……その魔力ってどれぐらい使うものなんですか?」

「四属性魔法や無属性魔法で用いられる魔力の数値化に合わせるなら、一から三の魔力消費で済む時はクラティオ、四から七で済むのがクラティダ、八以上の消費を要する場合をクラティガと呼んでる。それぞれの呼び方を発声する詠唱は、意識を集中するための呼称でしかないんだ。致命傷では使う魔力が十二ぐらいに達する場合もあるね」

「使った魔力は他の属性魔法と同じように、自然に回復するんですか?」

「うん。仮に魔力を使い切ったとしても、約一日でほぼ戻るよ。魔力が自然回復する早さも魔道士によって差があるけどね」

「魔力を回復するアイテムなんかは、この世界にはないんですよね?」

 カイトの質問を聞いたケンゾーが驚きを示すように目を丸くしてみせる。

「それは面白い発想だね。残念だけど、そんな便利なアイテムがあるって話は聞いたことがない。あれば便利なんだけどなあ……」

「そうなると……戦場で治癒魔法を使う場合は、慎重に使用するかしないかを判断することになりますね……」

「ああ、そうなるよね。俺は実戦経験がないから想像するしかないんだけど」

「二年前にあったていう短い戦争を別にすれば平和だったんですね、このミズガルズ王国は」

「うん。激動の時代にあっては奇跡だよね……だから、俺が教えられることは少ないのかもしれない。治癒魔法の修練といっても、傷のイメージを脳内に浮かべるっていう特殊なストレスに慣れるしかないってのが本質だったりするからね」

「あの……復活や蘇生といった死者を蘇らせる魔法はないんですか?」

 カイトの質問を受けたケンゾーは、わずかに目を伏せて答えた。

「ない、はずだよ。少なくとも俺は知らないし、使えない。あれば良かったんだけどね」

「そうですか……」

「残念だけど、治癒魔法は万能ってわけじゃない。死は絶対で不可逆なものだと思う。それを覆すような魔法はこの世界にも存在しないんじゃないかな……さて、実際に場数を踏むのが一番だ。早速だけど始めようか」

 ケンゾーが話を切り上げるサインとしてソファから立ち上がったので、それに従って立ち上がったカイトはケンゾーと一緒に本日の治療が予定されている病室へと移動した。

 軽傷の治療から始まった治癒魔法の行使はカイトにとって難しいものではなかった。

 実際の治療よりもカイトが気になったのは、患者たちが自分へと向ける視線に微かな畏怖のようなものが含まれていると感じることだった。

 魔法という不可思議な力を使う上に、貴族よりも国王に近い立場という魔道士の存在は、多くの一般に暮らす人々にとっては畏敬と畏怖の対象なのかもしれないカイトは推測した。

 そのカイトの推測は、一人の子供の患者によって裏付けられることとなった。

 四歳ほどに見える女児の患者にカイトが近づくと、途端に女児が泣き出した。

 女児の傍らに立つ母親らしき女性が、カイトに対して何度も深々と頭を下げて謝罪する。

「こわくないよ」

 カイトは女児に微笑みかけると、すぐに患部に右手をかざして治療を始めた。

 女児は右足を骨折していた。カイトは「すぐ痛いのなくなるからね」と口にしながら、治癒魔法での治療を施した。

 骨を|接《つ》ぐのは初めてだったが、カイトは何とか完治のイメージを浮かべることに成功して治療を終えた。

「もう終わったよ」

 カイトが伝えると、すんなり泣き止んだ女児はきょとんとした目をカイトに向けた。

「もう痛くないでしょ?」

 カイトが微笑みかけると、女児は頭を振るように大きくうなずいた。

「痛くない!」

「よかったね」

「ありがと、おにいちゃん!」

「うん。よかった、本当に」

 カイトはこの異世界で自分に授けられた能力が治癒魔法だったことに感謝した。

 感謝すると同時に「戦うための無属性魔法」を使えることに浮かれていた自分を振り返り複雑な感情も抱いた。

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